年金だけが生活費の支えの高齢者の方や、複数の借金を抱えている方であれば、「年金 差し押さえされてしまったら、生活できなくなるのではないか」という不安を持つのは当然です。
良いニュースと悪いニュースがあります。良いニュースは、公的年金(国民年金、厚生年金など)そのものは、原則として差し押さえられない仕組みになっています。これは法律で保護されているのです。
しかし、悪いニュースは、「例外」が存在するということです。年金 差し押さえは、年金を受け取った後の預貯金口座や、税金・社会保険料の滞納など、特定の状況では起きる可能性があります。
この記事では、年金 差し押さえについて、「原則」と「例外」を分けて、わかりやすく解説します。正しい知識を持つことで、適切な対策を取ることができます。
年金 差し押さえは原則できないって本当?
差し押さえの基本ルール(差押禁止債権とは)
日本の法律では、すべての財産が差し押さえ対象になるわけではありません。「差押禁止債権」という、法律で差し押さえが禁止されている財産・権利があります。
差押禁止債権に含まれるもの:
- 給与:毎月の給与(ただし一定部分のみ保護)
- 公的年金:国民年金、厚生年金、共済年金など
- 失業保険:失業給付金
- 生活保護費:生活保護による給付
- 生活に必要な動産:寝具、食器、衣服など
これらは、「最低限度の生活を保障するために必要」という理由から、差し押さえが禁止されているのです。
公的年金が保護される理由と範囲
公的年金が差押禁止債権に指定されているのは、年金が「老後の生活を支える最後の砦」だからです。
国民年金・厚生年金などの位置づけ
国民年金、厚生年金、共済年金など、すべての公的年金は差押禁止債権です。民間の個人年金(個人年金保険など)は、この保護の対象外です。
「年金の受給権」と「受け取った後のお金」の違い
ここで重要な区別があります。
「年金の受給権」(差し押さえ禁止):
将来の年金を受け取る権利そのもの。これが差し押さえ対象になることはありません。
「受け取った後の年金(預貯金)」(差し押さえ可能):
銀行口座に振り込まれた年金は、「預貯金」として扱われます。この預貯金口座が差し押さえの対象になる可能性があります。
この違いが、「年金 差し押さえは起きない」と「年金 差し押さえが起きる」という両方の説が存在する理由です。
差し押さえ対象になる財産・ならない財産の全体像
差し押さえの対象になり得る主な財産(預貯金・給与など)
差し押さえの対象になりやすい財産:
- 預貯金:銀行口座の残金(一定部分を除く)
- 給与:毎月の給料(4分の3を超える部分)
- 不動産:自宅、土地、建物
- 自動車:所有する自動車
- 有価証券:株式、債券
- 保険の解約返戻金:生命保険の解約金
差押禁止動産/差押禁止債権の考え方
一方、差し押さえが原則禁止される財産もあります。
生活維持のために守られる財産の例
- 衣服、布団などの寝具
- 鍋、食器などの食卓用具
- テレビ、ラジオなどの情報機器
- 暖房用機器(季節によって)
- 一定額(99万円以下)の現金
これらは「生活に不可欠」という理由から、差し押さえが禁止されています。
差し押さえが実行されるまでの大まかな流れ
通常、差し押さえまでの流れは以下の通りです。
1. 返済期限を超過(1~2ヶ月)
支払い期限を過ぎて返済がない状態。
2. 督促状が届く(2~3ヶ月目)
法的な催告。
3. 簡易裁判所での訴訟
返済判決が下される。
4. 判決後の強制執行
差し押さえが実行される。
つまり、いきなり差し押さえが来るわけではなく、段階的に進むのです。
年金 差し押さえが起きる「例外」ケース
年金が振り込まれた預貯金口座が差し押さえられる場合
年金そのものは差し押さえ禁止ですが、その年金が振り込まれた銀行口座は別です。
口座残高=預貯金債権として扱われるポイント
年金が銀行口座に振り込まれた時点で、その金額は「預貯金」として扱われます。預貯金は差し押さえ対象です。
例えば:
- 月15万円の老齢年金が受け取り口座に振り込まれた
- その口座に他にも貯金がある場合、口座全体が差し押さえの対象
- 結果として、年金額分も含めて差し押さえされる可能性
生活費が引き落とせなくなるリスクと注意点
差し押さえにより預貯金口座が凍結されると、その口座からの引き出しや自動引き落としが停止されます。
高齢者の場合、以下のリスクが生じます。
- 医療費の支払いができない
- 家賃の自動引き落としが止まる
- 光熱費の支払いが停止
- 食費を含む日常の支出ができない
この状況を避けるためには、「年金受取口座」と「日常生活用口座」を分けることが重要です。
税金・社会保険料の滞納で年金が差し押さえ対象になる場合
年金に対する特別な差し押さえ権を持つのが、税務署と市区町村です。
一般の借金との違い(手続き面の違い)
一般の借金(消費者金融など):
簡易裁判所を通じた訴訟手続きが必要。その後、執行官による差し押さえ手続き。
税金・社会保険料の滞納:
行政機関(税務署、市区町村、年金機構など)が、裁判を経ずに直接差し押さえを実行できます。(手続きの考え方は税金滞納の滞納処分も参考になります。)
つまり、税金滞納は一般の借金より、年金 差し押さえが実行されやすいということです。
差し押さえ前に届く通知・督促の典型例
税金や社会保険料の滞納がある場合、以下の通知が届きます。
納付督促:
「保険料を納めてください」という郵送での催告。この段階ではまだ差し押さえは行われていません。
差押予告通知:
「差し押さえを実行する予定です」という正式な通告。この通知を受け取ったら、対応の余地がほぼありません。
私的年金(個人年金保険など)が差し押さえ対象になり得る場合
公的年金は保護されていますが、私的年金は別です。
解約返戻金が狙われる仕組み
個人年金保険や民間の年金商品は、「解約すればお金が返ってくる」という仕組みがあります。この「解約返戻金」は、差し押さえの対象になり得ます。
差し押さえの流れ:
- 保険会社に対して「解約返戻金の支払い」が差し押さえられる
- 本人が保険を解約する前に、返戻金が支払われなくなる
- 結果として、貯蓄したはずの返戻金が失われる
差し押さえ対象になりにくい制度・なりやすい商品を整理
差し押さえされにくいもの:
- 生命保険の保障部分(解約返戻金がない保険)
- 進学積立保険(返戻金が低い場合)
差し押さえされやすいもの:
- 個人年金保険(高い解約返戻金)
- 積立型保険(高い解約返戻金)
- 学資保険(返戻金が多い商品)
差し押さえを避けるために今すぐできること
借金(ローン・カード)滞納の初動対応
差し押さえを防ぐには、初動が何より重要です。返済期限を超過した早い段階で対応することが決定的です。
支払いの優先順位の付け方(生活費の確保を前提に)
複数の返済義務がある場合、以下の順で優先順位を付けましょう。
最優先:生活費(食費、家賃、光熱費)
生活が成り立たなければ、返済も何もありません。
2番目:税金・社会保険料
これらは行政が強力な差し押さえ権を持つため、優先度が高い。
3番目:住宅ローン・自動車ローン
担保を失うことになるため、この次。
4番目以降:消費者金融・クレジットカード
最後の優先度。ただし、完全に放置は禁止。
債権者との交渉で押さえるべきポイント
返済が困難になったら、すぐに貸金業者に連絡しましょう。
- 「返済困難な事情がある」ことを正直に伝える
- 「今、幾らまでなら返済できるのか」を明示
- 「いつから通常返済に戻せるか」の見通しを提示
- 分割返済や一時的な返済額軽減を交渉
多くの業者は、完全な返済不能より「返済継続の可能性」を優先するため、交渉が成立することもあります。
税金・社会保険料滞納の初動対応
猶予・分納・免除など利用できる制度の考え方
税金や社会保険料の滞納に対しても、差し押さえ前に対応方法があります。
納付猶予:一時的に納付を延期してもらう制度。最大1年間の猶予が可能な場合もあります。
分納:月々の分割納付に応じる制度。一括払いが困難な場合、現実的な方法。
減免制度:特定の困難事情がある場合、滞納金の一部が免除される可能性。
相談先(役所窓口・年金事務所など)の使い分け
所得税・住民税の滞納:
管轄の税務署または市区町村役所に相談(自治体の対応例としてさいたま市の滞納処分・差し押さえの案内も参照できます)
国民健康保険料の滞納:
市区町村役所の国保担当課
国民年金保険料の滞納:
市区町村役所の年金担当課または年金事務所(状況により国民年金保険料の強制徴収の対象となる場合があります)
厚生年金保険料(給与天引き)の滞納:
勤務先企業の給与担当部門
相談のコツ:「差し押さえを避けたい」「生活が困難」という状況を正直に伝えることが重要です。行政機関も、全く対応しない人より、相談に来た人を優先的にサポートします。
口座差し押さえリスクを下げる資金管理の工夫
受取口座の管理・残高の置き方の注意点
年金受取口座と日常生活用口座を分けることが、最も実用的な対策です。
推奨される口座管理方法:
- A銀行:年金受取口座(年金のみ受け取り、すぐに他行へ移動)
- B銀行:日常生活費用口座(食費、光熱費の引き落とし用)
- C銀行:ローン返済専用口座(住宅ローンなど)
この分離により、A銀行の口座が差し押さえされても、B銀行の生活費は保護される可能性が高まります。
受取方法の選択肢と防犯面の注意
年金の受取方法には、複数の選択肢があります。
- 銀行振込:最も一般的。ただし口座差し押さえリスク
- 郵便局振込:銀行より差し押さえが複雑化する場合も
- 現金受け取り(年金事務所):口座を使わない方法。ただし手続きが煩雑
完全な回避は難しいですが、複数の選択肢を検討することで、リスク軽減は可能です。
すでに差し押さえられたときの対処法
差押禁止債権の範囲変更申立てとは
既に差し押さえが実行された場合でも、対応方法があります。
どんなときに認められやすいか
「差押禁止債権の範囲変更申立て」とは、「差し押さえられた金額は生活に必要なお金だから、その一部を返してほしい」と裁判所に申し立てる手続きです。
認められやすいケース:
- 申立人が高齢者(年金が主な生活資金)
- 差し押さえられた金額が生活費を上回っている
- 他に生活資金がない状況
- 医療費など必要な支出がある
申立ての流れと準備する資料イメージ
申立ての流れ:
- 差し押さえを実行した地方裁判所に申立書を提出
- 家計簿(月々の支出)を提出
- 給与・年金明細などの証明書を提出
- 裁判官の判断により、差し押さえが一部解除される可能性
準備する資料:
- 差押命令書(既に受け取っているもの)
- 年金の振込通知書
- 月々の支出記録(食費、光熱費など)
- 通帳コピー
- 身分証明書
債務整理で差し押さえを止める・整理する選択肢
差し押さえを根本的に解決するには、債務整理という選択肢があります。
任意整理が向くケース/向かないケース
向くケース:
月々わずかでも返済能力がある場合。利息をカットしてもらえば、返済が続けられる状況。
向かないケース:
既に複数の差し押さえが実行されている場合。複雑な状況では、任意整理では対応しきれない。
個人再生が向くケース(住宅などがある場合)
向くケース:
安定した収入がある場合。借金を大幅に減額できれば、返済が継続できる状況。特に住宅ローンがあり、住宅を残したい場合に有効。
自己破産が向くケース(生活再建の考え方)
向くケース:
完全な支払不能に陥っている場合。借金を完全にリセットして、人生を立て直したい場合。
税金・社会保険料は債務整理で減免されない点の注意
重要な注意点として、税金と社会保険料は、債務整理(任意整理、個人再生、自己破産)でも免責されません。自己破産してもなお、返済義務は残ります。
現実的な解決策(分納・猶予中心)の立て方
税金・社会保険料は、以下の方法で対応します。
- 税務署・市区町村と分納計画を協議
- 納付猶予の申請
- 困難事情がある場合、減免申請
- 必要に応じて、分割納付期間を長期化
完全な免除は難しいですが、「払える範囲での分割」という現実的な解決が可能です。
弁護士に相談するメリットと相談前チェックリスト
相談でできること(交渉・申立て・整理方針の設計)
弁護士に相談することで、以下が可能になります。
- 債権者との交渉:返済条件の改善、差し押さえ前の対応
- 申立て手続き:差押禁止債権の範囲変更申立てなど
- 債務整理の設計:任意整理・個人再生・自己破産のどれが最適かの判断
- 税務署・市区町村との交渉:分納計画の立案
無料相談で確認したい項目
借入状況・滞納状況・差し押さえの有無
以下の情報を準備して、相談に行きましょう。
- □ 借入先すべての名前と残額
- □ 月々の返済額
- □ 滞納状況(どこから何ヶ月滞納か)
- □ 既に差し押さえ命令書が届いているか
- □ 税金・社会保険料の滞納額
家計収支と今後の見通し
- □ 月々の収入(年金、給与、その他)
- □ 生活費(食費、家賃、光熱費など)
- □ 今後の収入見込み(増減予定)
- □ 家族構成と扶養者の有無
相談先の選び方(法テラス等の活用も含めて)
法テラス:
経済的に困難な人向けの無料相談。弁護士費用の立て替えも可能。高齢者にとって最も利用しやすい。
自治体の法律相談:
市区町村が無料で開催している法律相談会。予約が必要な場合もあります。
弁護士事務所・司法書士事務所:
初回相談が無料の事務所も多くあります。
弁護士会:
各都道府県弁護士会が、法律相談窓口を運営しています。
よくある質問(年金 差し押さえFAQ)
年金 差し押さえは違法なの?
回答:年金を受け取る権利そのものが差し押さえられるのは違法です。ただし、受け取った後の年金(預貯金)が差し押さえされるのは合法です。この区別が重要です。
差し押さえされる条件は何?
回答:一般の借金では「返済判決から30日経過」が目安。税金では「納付催告から一定期間経過」。ただし、段階によっては交渉余地があります。
いくらまで差し押さえできる?
回答:年金が振り込まれた口座の場合、口座全体が差し押さえの対象になり得ます。ただし「生活に必要な最低額」の範囲変更申立てにより、一部返還される可能性もあります。
口座振込をやめれば回避できる?
回答:振込方法を郵便局受け取りなどに変更すれば、銀行口座差し押さえは回避できます。ただし、税務署が直接指定した口座への強制振込に変更される可能性もあります。
回避策としての限界と現実的な代替案
受取方法の変更は一時的な対応に過ぎず、根本的な解決にはなりません。重要なのは、以下の対応です。
- 滞納を解消(分納計画の策定)
- 返済能力の確保(生活費の最適化)
- 必要に応じて、債務整理の検討
まとめ|「原則」と「例外」を理解して生活を守る
公的年金は原則守られるが口座・税金滞納は要注意
年金に関して最も重要な理解は、「受給権は守られるが、受け取った後は要注意」という点です。
年金だけが生活資金の高齢者の場合:
- 年金の受給権そのものは絶対に守られる
- ただし、銀行口座に振り込まれた後は差し押さえリスク
- 特に税金滞納がある場合、差し押さえが実行されやすい
- 事前の対応(分納、猶予の申請)が決定的に重要
早めの相談と手続きで差し押さえリスクは下げられる
最後に最も重要なメッセージです。年金 差し押さえを完全に避けることは難しいかもしれません。しかし、早期の対応により、リスクを大幅に下げることは確実に可能です。
「差し押さえが来そう」「滞納が続いている」と感じたら、以下のいずれかに連絡してください。
- 税務署(税金滞納)
- 市区町村役所(社会保険料滞納)
- 弁護士・司法書士(借金)
- 法テラス(無料相談)
相談することで、返済計画の見直し、分納、猶予、さらには債務整理など、多くの選択肢が見えてきます。年金だけが生活資金の人だからこそ、早期対応が何より重要です。

